デンプン生合成関連酵素の機能改変と植物生産性向上への応用
本研究では,植物の生産性向上に結びつくデンプンの量的改変とデンプンのカスタムメイドを可能にする質的改変を最終的に目指している。この目的を達成するためには,デンプン生合成に関わる酵素群の機能を明らかにし,生合成機構の詳細を理解することが必須である。
植物の生産性向上を目指すためのターゲットとして同化デンプン代謝に着目した.植物のソース器官で固定された炭素は,トリオースリン酸 (TP) に変換されショ糖合成に利用される(図1)。ショ糖はシンク器官へ転流され,エネルギー源として用いられる。光合成の進行によりショ糖合成が飽和すると,TP は同化デンプン合成に回される。このことは,同化デンプンが夜間の炭素源としてだけでなく,昼間の過剰な TP の一時的なシンクとしても働くことを示している。したがって,同化デンプン代謝能を強化することができれば,シンクへの炭素フラックスの増加を導くと考えられ,植物の生長や生産性増加が期待される。
同化デンプン蓄積量を操作するためのターゲットには,ADP-グルコースピロホスホリラーゼ (AGPase) を選択した。AGPase は,デンプン合成の鍵酵素であり,基質である ADP-グルコース (ADPG) を供給する。その酵素活性はアロステリックに調節され,同化デンプン合成速度を支配している。そこで,アロステリック感受性の低下した機能向上型 AGPase を作ることができれば,同化デンプン合成量を増加させることができると期待された。
大腸菌における植物 AGPase 発現系の構築,ランダム変異,部位特異的変異,逆遺伝学的手法などを駆使して,最終的にシロイヌナズナ葉 AGPase の3種の in vitro 機能向上型酵素を作製することに成功した。この機能向上酵素を発現する植物を作成したところ,同化デンプン代謝能の強化をもたらし,同化デンプンの回転率(最大蓄積量と最小蓄積量の差)が野生型株の1.1〜1.3 倍に増加した。また,形質転換植物の中には,二酸化炭素固定能(=光合成能)や個体あたりの種子数(=生産性)が野生型株の1.2倍程度に増加したものが見いだされた。これらの結果は,機能改変 AGPase の発現が同化デンプン代謝能の増加に寄与し,生長や生産性を向上させる可能性を秘めていることを示唆している。
名称・型番(メーカー) | |
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大型恒温振とう培養システム・G -B R - 2 0 0(タイテック株式会社) |